ボク、戸羅門

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 自分が不幸? そんなことを信じたくない信太は、声を荒げて反論します。 「うっそこっけー! ハチャメチャ言うとるんやないやろなー?」 「いやマジデ。それが分かんねやわー。なんで分かる知っとー?」  小太りのあまりの自信の顔に、信太は言葉を呑むことしか出来ません。 「はぅ……」  ここでふと小太りは、畳みの上に置いてあった餅に目を落としました。 「なにこれ?」  なんて緊張感の無い小太りなのだろう。  信太は怪訝な顔で強く叫びました。。 「餅やんけー!」  小太りは興味津々な顔で、それをパクつくと「うんまー! バリやばいやん」と言って全部たいらげて、最後はお皿までペロペロ舐める始末……。  その時! 「んんっ……くくく……」  小太りが餅を喉に詰まらせ、苦しむ様を目にして、信太は腹を抱えて笑いたい衝動を抑えつつも、平然とした顔でお茶をすすめました。 「まぁーまぁー、ぐいっといきーやー」 「あうち! テメェー! これっ、熱湯やんけー! おれが猫舌や、ゆーの知っとって、わざとやなー?」 「違いますやん」ニヤニヤ顔の信太。  腰を屈めて猫背になり、湯飲みをフーフーするその姿を、信太はニッタらニッタしながら眺めました。  小太りはというと、先ほどの熱舌でトーンダウンしたのか、借りてきた猫のように大人しくなっていました。 「こんな熱いお茶、初めて飲んだわー」  と猫なで声まで出す低落。 「大袈裟なっ」  呆れ顔の信太。  すっかり猫を被り、警戒心を見せながら、小太りは、 「ほな、ごっそーさん」  そう言ってまた、机の引き出しに入り、そのまま帰って行ってしまいました。 「なんやねん!」  もう、帰るんかーぃ! のツッコミも空しく、信太は途方に暮れた。  暫くして、机の引き出しを、全開にして取り出したり、ひっくり返したり、調べてみたり色々と試しましたが、結局、信太はこう結論つけました。 「ぶぶっ! マジありえないしー。おれ、夢見てたんちゃうー?」  その時、また机の引き出しの中から、人の声が聞こえてきた──と思ったら、中から信太と瓜二つの男の子が姿を現しました。  そして開口一番。 「あれ? 戸羅門は?」  なにがなんだか、信太には今の状況がサッパリ分かりません。
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