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……入ると、嫌みのない豪奢な空間が広がっていた。粒を小さくしたシャンデリア。扇形階段へと繋がる、上質な赤い絨毯(じゅうたん)。
階段の上に人影が見えた。綺麗な女性が、微笑みながら迎えてくれた。
「いらっしゃい。旅のお方。外は雷も鳴る酷い雨。ごゆるりと雨宿りなさってね。」
まるで、生きている人間と変わらない女性。
「いやぁ、助かります!暫くお願いします!俺、3月ウサギと言います!こいつが帽子屋で、こいつがアリス。この子が赤ずきんで、この子が白雪姫です!」
3月ウサギの顔は弛んでいた。
「私はマリカです。ええ、ゆっくりなさっていって。……娘たちも喜ぶわ。」
彼女の後ろから、カラカラと車椅子に乗った美少女と、フランス人形を抱き締めている幼い美少女が現れる。
「次女のエリカと三女のセリカです。」
……違和感を感じた。長女がいない。この違和感が何を意味しているのかは、まだわかるはずもなかった。
「エリカちゃんは私たちと変わらないくらいだよ、ローゼ。」
「そう……。あたしには、リーゼ以外に興味はないけど。」
ローゼリアは、感じていた。招かれたのは、自分ではないと。皆は気がついていない。優しそうな笑みを湛えながら、三人が見つめる先を空気で感じたから。
……狙われているのは、リーゼロッテと3月ウサギ、アリス。この三人が招かれ、ローゼリアと帽子屋は一緒にいたから入ることが出来たのだと。
「マリカさん、おキレイですね!お子さんがいるなんてビックリのお若さ!俺たち、ラッキー♪あ、旦那さんとかに確認しなくていいんすか?姿見えないですけど…。」
絶賛する3月ウサギは本気そのもの。
「……主人は、先の戦争に行ったきり、まだ帰ってはきません。酷い戦争でしたから、もしかしたら……。」
辛そうにする未亡人に、すかさず駆け寄り、無駄に絵になる図を構成した。
「……すみません。お辛いですよね。俺で良かったら、話し相手くらいさせてください。少しは気も紛れるでしょう。」
「ありがとう。お優しいんですね。」
こいつは食えないやつだ。然り気無く、情報の確認作業をした挙げ句、チャッカリと年上美女の隣をキープした。
「お見苦しいところをお見せしました。申し訳ありません。セリカ、皆さんをお風呂場にご案内して。風邪を召されてしまうわ。」
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