クリスマス前と、、、

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その1、   年の終わりが近付いたある日の夕方、2人は、繁華街に飾られている大きなクリスマスツリーの上から、忙しそうに行き交う人達を眺めていました。  「ねぇ、お兄ちゃん、どうして羽が生えちゃったんだろう?」と、妹の夏子はその大きな眼を真丸にして、キョトンとした顔で兄に聞きました。  「わかんないよ、何時からだろうね?あんまり記憶がないんだよ、夏ちゃん。僕が知っているのは、僕は夏ちゃんのお兄ちゃんで、何処かに、お父さんとお母さんがいるんだけど、僕達には二人が見えなくて、他の人も僕達が見えないって事だけなんだよ。」と答えて、妹の顔を覗き込みますと、、今にも泣き出しそう顔をしています。  「でもさぁ、ほら、あの大きな髭を生やしたお爺さんが言ってたじゃない。人の幸せは自分の幸せなんだよって。だから、いっぱい幸せを作ろうよ、幸せになろうよ、夏ちゃん。」と言い足しますと、妹は大きな涙をいくつか落として、ゆっくりと頷きました。  街を行き交う人達は、手に買い物袋をぶら下げて、めいめいに大きな声で話しながら、楽しそうに笑っています。すると何処からか、悲しそうな女の人の声が聞こえてきました。いいえ、二人の心に届きました。  「お兄ちゃん、聞こえた?誰かが泣いてるよ。」  「そうみたいだね、大人の女の人かな?行ってみよう、夏ちゃん。」と言って、兄は妹と手を繋ぎ、羽を軽く羽ばたかせて、クリスマスツリーから飛び立ちました。  2人は、楽しそうに話す人達の頭の上ギリギリの所を飛びながら、その女の人を捜しました。  突然、妹は兄の手を強く握ったかと思うと、その手を離し、 「お兄ちゃん、多分あの人だと思う。」と言って、その女の人の所に飛んで行ってしまいました。兄も妹の後に続いています。  少しお酒に酔っているのか、ふらふらと、うつむきながら歩く女の人から、 「疲れた、もうだめ、、、私にはもう何も無い、、、誰も私の事を愛してくれない、、、もう1人は嫌だ、、、もう、生きていたくない、、、もう、頑張りたくない。いっその事、飛んでしまいたい。」と言う声が聞こえてきます。    その女の人の頭の上を飛んでいる2人は、心配でしかたありません。
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