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その3、
人影のなくなった、繁華街を1人のホームレスが紙袋を持って、トボトボと歩いていました。その彼の後には、ドロドロの子犬がトコトコと付いて歩いています。
その男は、立ち止って後を振り返り、
「お前にあげれる物はもう無い。そろそろ仲間の所に帰りな。今晩はもっと冷え込むぞ。」と話しかけますが、その子犬は、キョトンとした顔をして、シッポをふり続けています。
男がまた、トボトボと歩き出しますと、その子犬もまた、トコトコと男の後に続いて歩き出します。ちょうど、明かりの消えたクリスマスツリーの前に立ち止まった男は、ふっうーと溜息をつくと、あぐらを掻いて座り込みました。子犬も男の横に座わりました。
男は綺麗に飾られたクリスマスツリーを、しばらくの間見上げていましたが、隣に座る子犬の頭をなでながら、
「今はこんなんだがな、俺も、昔は家族がいたのさ。息子と娘が1人ずつだ。子供の為にと働いたつもりさ。でもな、懸命すぎてな、、、気が付いたら、家族はバラバラだったよ。息子は高校が終る前に、家を飛び出してな。娘も高校を出たら、何処かの男とさ。」と言うと、折れ曲がった煙草に火を点け、クリスマスツリーを見上げながら、フッーと煙をはきだしました。
「あげくの果てには、嫁も家を出てしまってな、、、金さえ有れば、幸せに成れると思っていたんだな。でもな、いくら多く金を稼いでも、家族とちゃんと時間を過ごせなかった俺は、間違っていたのさ。まぁ、天罰てやつよ。」と言うと、紙袋から食べかけのパンを取り出し、
「これは、俺の朝飯にする予定だったが、お前にやるよ、食べな。」と言い、そのパンを小さくちぎって、子犬の前に置きました。
その夜、男のダンボウル箱の家の中には、蛍の様な光が2つ飛んでいます。それは、温かい光でした。そして、横に成った男の側には、あの子犬が丸く成って寝ています。
男は子犬の頭をなでながら、
「今夜は、やたらと暖かいな。お前がいるからかもな。もし、嫌じゃなかったら、ここに何時までも、いてもいいからな。」と呟くと、男は少し優しい暖かい気持ちに成りました。
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