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そう。今日は出勤日。
それも最後の。
車のハンドルを握りながら物思いにふける。
今の職場にお世話になってから早十年か。いろんなことがあったな。
だがそれらの思い出は向こう側でのあまりにも鮮烈な思い出にかき消されてしまい、今は遠い遠い霞のかなた。
この手は・・・血塗られてしまった。
幾万の命を奪い続けた手。
その手で今まで通りの生活、仕事はもうできない。
利用者を抱き上げようとして、腰を砕きそうになった。
食事介助をしていてスプーンで瞳を抉りたい願望にかられた。
幾度も襲うフラッシュバックは俺に今まで通りの生活を断念させた。
現場仕事も、書類仕事ももうできない。
どこの世界にケアマネ業をしていて家族の頭をもぎ取る衝動にかられる狂人がいる。
どこの世界にケアワーカー業をしていて利用者の両足をへし折りたい衝動にかられる狂人がいる。
もう。俺に誰かを支える仕事はできない。
だから今日が最後の出勤日。
ふと、隣に座る妻を見る。
見られていることに気づいたのか、微笑みを返してくれる。綺麗だ。きゅんきゅんする。ハァハァ。
「・・・前、ちゃんと見ようね?
もぐわよ?」
「はぃぃぃっ!!」
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