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「…っ、あなたっ」
「その声は、美津子、か?」
近づいてくる足音…
椅子を引く音が聞こえて、隣に彼女が座る気配があった。
「…良かった。目が覚めて」
「俺、どうして?」
「……帰宅途中で飛んできたボールにぶつかって気を失ったの。近くにいた人が救急車呼んでくださったんだけど、目をね…怪我してしまって。…緊急で手術したの」
「……目」
…硬く目を隠すように巻きつけられた布。目を怪我して手術を受けたとしたら、これは包帯なのだろう。
「…1週間で包帯は取れるそうなの。悪化したら大変だから、あまり触ってはダメよ」
無意識に包帯に触ろうとした手を優しく制止されて、手を布団の上に戻す。
「会社には連絡を入れて置いたわ。…有休も丸々残ってるし、ゆっくり休めって…」
「…そうか」
思えば社会人になり、責任を背負う重みを知り、ずっと脇目も振らずに日々を駆け抜けてきた。
家では妻と子供のため、会社では仲間と組織のため、必死になって働いていた俺がゆっくり休みをとるのは、なんだか久しぶりな気がする。
けれど…
「…なにも見えないのは、思いのほか不便だな」
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