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あるところに不眠症の男が居た。
男は今夜も疲れた身体をベットによこたえて居たのだが、急な尿意で目覚めトイレへと向かった。
男は用を足すと、洋式便器に見慣れた物をが浮いているのを見つけた。それは100均で買った耳栓だった。
不眠症の男は、毎晩100均のスポンジ製イヤープラグを使用していたのである。
不味いな、手持ちがもうないのに……洗って乾かせばまだ使えるかな?
男はそう思ったが、黄色い耳栓が更に黄色くなったように思えて少し躊躇した。
すると突然、便器の底から手がにょきにょきにょきと生え出てきた。
驚いた男は後ずさりし、ドアの取っ手に思いきり腰を打ちつけてしまった。
「イテテテテ……」
腰に手を当て、前屈みになった男に、便器から出て来た何者かが声を掛けた。
「わたしは便器の女神です。貴方が便器に落としたのはこの金の耳栓ですか? それとも銀の耳栓でしょうか?」
男は答えた。
「只のスポンジ製の耳栓ですよ」
便器の女神は男の答えが聴こえないのか質問を続けた。
「貴方が落とした耳栓はこのプラチナの耳栓? それともタングステンの耳栓かしら?」
「だから黄色い普通の耳栓ですってば」
こんな会話が小一時間続いた。
男は、疲れた……もうイヤだ……。そう思ったが、女神を怒らせるのも得策ではない。
何より女神だけあって美人であったし、美人の融通が少々利かないというのもよくあることで、仕方がないとも男は思っていた。
しかし、何時までもこの調子では埒が明かない。だからといって無視して、寝床までついて来られたら目も当てられない。
そして気が付いた。この女神は融通が利かないだけなのだ、コンピューターの様に的確に、一字一句間違えずに答えなければ正解にならないのではないかと。
「貴方が落とした耳栓はこの鉛の耳栓かしら? それとも純アルミの耳栓かしら?」
「私が便器に落としたのは、100均で買った黄色いスポンジ製の耳栓です」
「ピンポン!」
男が正しく答えると、女神はたいそう喜んでこう言った。
「正直者よ、よくぞ言いました! 正直な貴方にはこの金と銀の耳栓を差し上げましょう。そして「手にした耳栓を金の耳栓に変える能力を授けます」
そういうと女神は耳栓を男に手渡し便器の中へゴボゴボと消えていった。
こうして男が手にする100均のスポンジ耳栓は、悉く金の耳栓に変わる様になった。
やがて男は、不眠症からノイローゼになった。
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