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「こんなところでひとりカップ酒とは思いませんでした」
「あ、は、はい?」
「アパートを訪ねたんですが、まだ帰ってなかった」
「ええっ、おっ、おおっ?」
「電話をすればよかったのですが、あいにくと僕はあなたの携帯電話の番号を知らない」
「あっあっあの……主……」
「職場じゃないのですから、伏見で構いませんよ、鴨川さん」
なにがどうなっているのかさっぱりわからない。伏見はさっきからなにを言っているのだ。全然理解できない。いや、日本語は通じている。が、訳がわからない。
「あ、あの、いったい……」
「せっかく寿司を買ったのに、どうしようかと途方に暮れていたら、チーカマの匂いをぷんぷんさせたこの子が纏わりついてきて……」
「す、寿司? チーカマ?」
伏見の足元には件の猫がちょんと座っている。チーカマを食べて満足したのだろうか、懸命に顔を洗っていた。
「なんだか、導かれているような気がしてついてきたんです」
「く、黒猫について……? いや、普通は不吉とか……」
「なにを言っているんです、黒猫は吉兆ですよ。祖母が言っていました」
「吉兆?」
「祖母の言ったとおりでした」
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