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ますますわからなくなった。伏見との会話が成り立たない。原因は伏見の言葉をただただ繰り返すだけの鴨川にある。だが、伏見だとてちゃんと筋道を立てて話しているとは思えない。
祖母がどうの、黒猫がどうの、寿司だのチーカマだの、吉兆がどうしたのと、いったいなにが言いたいのだ。
「あ、あの、主……伏見さん、俺にはなにがなんだかさっぱり……」
伏見は足元に座っている黒猫を膝の上に抱きあげた。チリリ、と鈴の音を鳴らして黒猫は大人しく丸くなる。伏見は長い睫毛を伏せ、それきり黙ってしまった。
時折冷たい風が吹き、通りの向こうで紙袋かなにかが飛ばされるような音が聞こえる。
耳元では相変わらず心臓の音がバクバクと騒いでいた。
どうすればいいのかわからない。伏見はなぜここにいて、なにをしに来たのだろう。
どのくらい続いたのかわからない沈黙は、伏見が大きく息を吸い込む音で終わった。
「あなたに話があったのです」
また心臓がドクンと飛び跳ねる。
「話……?」
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