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「何度も飲みに誘おうとしたのですが、駄目で……」
「飲み……?」
「年末年始のシフトはチャンスだったのに、どうしても切り出せなくて……」
「あの……主、いや、伏見さん?」
伏見は目を伏せたまま、また黙った。膝の上にいる黒猫を撫でている。まるで自分の心を落ち着かせようとしているようだ。
しばらくそうして、やがてゆっくりとこちらを向いた。
「それ、飲んでもいいでしょうか?」
鴨川が手に持ったままの、ちびちび舐めていただけのカップ酒を指差す。
「こ、これ?」
「はい」
「あ、主、いや、えと、まだもう一本こっちに……」
「それがいいんです」
「え……?」
鴨川が返事をする前に伏見はすっと手を伸ばしカップ酒を奪い取った。
コクコクと喉を鳴らして一気に飲み干す。いい飲みっぷりだ。繊細なように見えて豪快なところもある。
いや、感心している場合じゃない。伏見はなにかを話そうとしているのだ。酒は勢いをつけるために飲んだのに違いない。
「僕は、この容姿のせいで随分苦労しました」
「は?」
どこからどう見ても容姿端麗、イケメン、男前。褒め言葉しか見つからない姿形だと思うのに、苦労話を聞かされるのか。
「やたらと女性にもちやほやされて、そのせいで同性からは嫌われました。やっかみ、僻み、妬み……」
「えと……」
自慢話なのか?
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