烈姫ーrekiー

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 この年末年始の出勤は、なぜだかどういう訳か伏見と鴨川のふたりきりだった。  デスクは離れているものの、会話らしい会話もなく、ひっそりとしたオフィスに、パソコンのキーを叩く音だけが延々と続いた。無言の重圧。昼になれば伏見は黙って出掛けてしまい、鴨川はひとりでコンビニのおにぎりを食べた。  定時を過ぎ1時間ほどの残業をすると鞄の整理をし、「お先に」の言葉を残して帰っていく。「お疲れさまでした」と答える声が震えた。  厳しい指導もないかわりになんの言葉かけもない。沈黙を通り越して無音の恐怖とでも表現すればいいのだろうか。  よっぽどいやなのに違いない。世の中が正月休みで浮かれている時に、恋人と過ごすことも出来ず、大嫌いな男とふたりきりで仕事など、もし自分が同じ立場だったなら我慢できない。  伏見はじっと耐えているのだ。  そう思うと鴨川は訳もなく自分の存在を消してしまいたいような、どうしようもない感覚に陥ってしまう。 「つらいなぁ……」  ぼそりと呟くと答えるかのように尻の横でガサゴソと音がした。見ると先程の黒猫が鴨川の横にちゃっかり座り、チーカマの袋に手を伸ばしている。
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