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こんな寒い夜、人気のない公園にやってくるのは自分と猫くらいだと思っていた鴨川は、ひとりごとに返事があったことに驚いた。声のした方を振り向いてさらに驚いた。
「えげっ! ……主、主任?」
「えげっ、というのはなんなんです」
そこに立っていたのは鴨川最大の悩みの種、どういう訳だか足元に黒猫を纏わりつかせた伏見佑その人だった。
「あっ、いや、そのっ……」
「まあいいでしょう。隣に掛けてもいいですか?」
「あ、はい、はいっ」
鴨川は慌てまくって左に除けた。ハンカチを広げて敷きたい気持ちはあったが、あいにく手持ちはくしゃくしゃで、おまけにさっき鼻水を拭いた。仕方がないのでベンチの上を手で払った。
「ど、どうぞっ」
小さな声でありがとう、と言って伏見が隣に腰掛ける。
鴨川の心臓はポンプフル稼働だ。バックンバックンと、体の外にまで音が聞こえるのではないかという勢いで拍動している。
どうして伏見が隣にいる? そもそもなにをしに来た? どうして自分の居場所がわかったのだ?
言葉に出来ない疑問ばかりが頭の中を駆け回る。
聞きたい、訊ねたい。だが答えを聞くのが怖い。
もしかしたら伏見は、自分に引導を渡しに来たのかも知れないから。
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