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お釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっとみていらっしゃいましたが、やがて寒田たえと久毛が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうなお顔をなさりながら、またぶらぶらとお歩きになり始めました。悪女も善男も等しく、後先考えない刹那的な欲情にとらわれ、その劣情にふさわしい地獄を自ら選んで落ちていってしまったのが、お釈迦様のお目から見ると、浅ましく思召されたのでございましょう。
しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんなことには頓着いたしません。その玉のような白い花は、お釈迦様のおみ足のまわりに、ゆらゆらうてなを動かして、そのまん中にある金色のずいからは、何とも言えない良い匂いが、絶え間なくあたりへあふれております。極楽ももう昼に近くなったのでございましょう。
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