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すると、一生懸命にのぼった甲斐があって、さっきまで自分がいた血の池スパは、今ではもうくらがりの底にいつの間にかかくれております。それからあのぼんやり光っている美容針の山も、足の下になってしまいました。この分でのぼって行けば、地獄からぬけ出すのも、存外わけがないかも知れません。
寒田たえは両手を髪の毛にからみながら、ここへ来てから何年にも出した事のない声で、
「やっぱあたしってもってるわ~!ぎゃははははっ」
と笑いました。
ところがふと気がつきますと、髪の毛の下の方には、数限りもない罪人たちが、自分ののぼった後をつけて、まるで蟻の行列のように、やはり上へ上へ一心によじのぼって来るではございませんか。寒田たえはこれを見ると、驚いたのと恐しいのとで、しばらくはただ、バカのように大きな口を開いたまま、眼ばかり動かしておりました。
自分一人でさえ切れそうな、この細い髪の毛が、どうしてあれだけの人数の重みに耐える事ができましょう。もし万一途中で切れたといたしましたら、折角ここへまでのぼって来たこの肝心な自分までも、元の地獄へ逆落としに落ちてしまわなければなりません。そんな事があったら、大変でございます。寒田たえは「より豪華」「より贅沢」を求める女なのでございます。
が、そういううちにも、罪人たちは何百となく何千となく、まっ暗な血の池の底から、うようよとはい上って、細い髪の毛を、一列になりながら、せっせとのぼって参ります。今のうちにどうかしなければ、毛はまん中から二つに切れて、落ちてしまうのに違いありません。
そこで寒田たえは大きな声を出して、
「てめえらざけんじゃねぇっ!この髪の毛はあたしんだ!!下りろ!下りやがれ!」
とわめきました。
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