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 その途端でございます。今までピクとも動かなかった髪の毛が、急にぐいと上にひっぱられました。寒田たえがぎょっとしてはるか上を見上げると、そこに、大きなバーコード頭がありました。久毛でした。寒田たえの口があんぐり開きました。 久毛は愛しい女の声を聞き、いてもたってもいられなくなって、延々と伸びた自分の髪の毛を手繰り寄せ始めたのでございます。久毛は叫びました。 「たえさ~~~~~んっ!!大丈夫ですよ!僕がついてます!!絶対にたえさんをここまで引き上げます!そして今度こそ一緒に幸せになりましょう!!!」 寒田たえは、記憶よりさらに膨れ上がった久毛のほほを凝視いたしました。さらにまばらになったバーコードを凝視いたしました。身体が震えだし、知らず知らず喉から絶叫がほとばしりました。 「ムリ~~~~~~~~~~~~ッ!!!!!」 その瞬間、寒田たえの手は毛から離れ、その体はあっというまもなく風を切って、独楽のようにくるくるまわりながら、見る見るうちにくらがりの底へ、まっさかさまに落ちてしまいました。  落ちていく寒田たえの脳裏に、自分を針山に追い立てた赤鬼の筋肉質の体、恐ろしげなれど精悍と言えなくもない顔が浮かび、彼女の口角はうっすら上がりました。ところが。 「たえさ~~~~~~~~~~~んっ!!!!」  落ちてくる絶叫に無理やり首を曲げて天上を見上げ、たえの心臓は凍りました。  久毛の大きな顔が、いや、大きな体全体が、自分へ向かい落ちてきているのが見えたのでございます。  もう一度、寒田たえの絶叫が、地獄のくらがりの中に響き渡りました。
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