第1章

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奴の憑いている人が帰り支度を始めた。奴は意味深な事を言って、その人と帰って行った。 何だよ…。足を切り落とせって…塚本さんの足を? 塚本さんも稽古が終わって家に帰る。どこにも寄らずまっすぐ家に帰る…この人と何があったのかな…わからねぇ! 思い出せない…このまま思い出せなかったら?どうなるんだ? まさか…モヤモヤのまま…ずっと一緒なのか? やめてくれよ。マジ勘弁。 それにしても、塚本さんて…鈍感なんだな。すげぇな。俺が思い出したら、この人の足を切り落とすのか…。本当に奴が言ったようにスパッとやっちゃうのかな…。 いつ来るのかわからない恐怖をこの人は知らない…。俺に憑かれている事も気づいていない…。 じわじわと近づくその日を知らないこの人は、ある日突然、足を失うって事か…。 生かさず殺さず…。なるほどね。何をやらかしてくれたのか、これからゆっくり思い出してやろう。奴は、『またな』と言った。次に会うことがあるという事だ。影を切り離して自由になる日が来るという事。 奴が悪魔なら俺も悪魔…。 鏡に映った塚本さんに話しかけた。 「俺、思い出したら、あんたの足切り落とすんだって。」 鏡に向かって笑って言った。 完。
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