彼への気持ち

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それでも、そのあとに言い放った言葉から察するに、猛反対しているわけではないみたいだった。 「母さん、幸せそうだったからもう任せるかな」 ーー次の週の水曜日。 埃が西日に照らされてよく見える、あの狭い密室。火曜日以外に来るのは初めてだなあと思いつつ、私と千歳はこの薄暗い教室へ足を運んだ。 「初めて来たとき、ここは本田先生が入らなそうな教室だと思ったんだよね」 「あー、確かに」 「やっぱり置いてあるものよく見てみると、授業で使わなそうなものばっかりだもん」 数学の本田先生は潔癖症なのだ。 潔癖症なので当然のように独身。結婚できないよー、と生徒に冷やかされるとたまに課題を増やすこともあったりする。 「昨日、ありがとな」 カフェとか、付箋とか。 照れ臭そうにそう言う千歳は、昨日、17歳になった。 彼を祝うために連れて行ったカフェで私の誕生日を聞いたとき、彼がケーキを頬張りながら意地悪く笑ったのを、私は一日経っても忘れていない。 まあ、いいんだけど。
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