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何がおっけーなのかはわからないが、俺と美玖とを交互に見た葵が突然笑顔になる。
何だろう。この不自然なまでに、爽やか過ぎる葵の笑顔は。
だがそんな事を感じたのもほんの数秒で、久々に実家の食卓へ着いた葵は、和食を堪能しながら、三年間のスペイン暮らしを大いに語る。
スペインでのテニスの話に、父さんの家事の出来無さっぷりの話。それから手紙の一つも送って来ない兄の配慮の無さ……と、何故か後半は俺が責められていたが、葵の話で夜が更けていく。
……
「遅くまですみません。ごちそうさまでした」
「いえいえ、そんなの気にしなくていいのに。また来てね」
「はい。きっと明日も、たっくんに連れて来られると思うので」
実際、美玖の言う通りになると思うけど、わざわざ俺の家族に宣言しなくてもよかろうに。
「じゃあ、美玖を送って来るから」
「すみません、失礼します」
「美玖ちゃん、また明日ねー」
いつも通りの母さんに加え、葵にも見送られながら寒空の下、美玖と共に歩きだす。
まだ二人が玄関でこっちを見ていると思うのだけど、そんな事お構いなしに美玖が俺の左腕へ抱きついてきた。
「葵ちゃん、私より大きくなってたね」
「そうだな。まぁ三年も経ってるし、それなりに成長するさ」
「うぅ……で、でも美玖は育たなかったよぉ?」
「いや、それは遺伝とか生活習慣とかも関係するだろうし、仕方ないんじゃないか?」
バスケやバレーボールをすると背が高くなるって聞いた事があるけど、残念ながら中学も高校も俺と美玖は帰宅部だ。
まぁ元々は二人とも葵と同じテニス部だったのだけど、付き合いだしてから放課後の時間を部活よりも二人の時間に費やしたくなって辞めたのだから、背を伸ばすために今さらスポーツを始めるというのも本末転倒な気がする。
「というか、そもそも美玖は大きくなりたかったのか?」
「うーん、小さいよりかは大きい方が良いよね?」
「そうか? 俺は別に小さい方が可愛くて良いと思うけど?」
「たっくん、ホント!? 信じて良い?」
「あぁ、もちろん」
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