山猫

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俺は汽車くらいある前足の先からデッキブラシをかける。 こんなにデカくなった山猫は、もう立ち上がったところを一年は見ていない。 もしかしたらデカくなり過ぎて立てないのかもしれない。 いつも体の下に仕舞われている前足の毛はぺちゃんこだ。 村の隅っこでちっちゃく震えていた、茶色と白のハチワレ子猫を最初に見つけたのは俺だ。 初めは痩せっぽちで薄汚れていて、汚い靴下かと思った。 呼吸も浅くて今にも死にそうで、この世の不憫さをぎゅっと丸めたような奴に見えた。 俺は見兼ねて餌をやりに来るようになった。 俺だけじゃなくて、村の他の連中も可愛がって餌をやった。 そうしたらすくすく育って、どんどん育って、むくむくと育って…… 仔馬くらいになった時、さすがにみんなおかしいと思ったんだ。 でもうちの村の人たちはみんなのんびり屋で、俺も元気に育ってくれるならまあ良いかなんてのんきに考えていたら…… ついに村で一番大きくなってしまった。 その評判は隣街どころか、王都にまで轟いた。 観光客がやって来るようになって、うちの家でもお土産に木彫りの山猫なんかを売り始めた。 山の木を切って街に売るくらいしか産業の無かった村が、途端に観光業で食えるようになったから、みんな山猫に感謝感謝だ。
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