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「ここここちらの山猫はぁ、えええ栄養まんてんの牛の乳ををを」
気合いで病床から復活した村長は、王様と家来の人たちに身振り手振りで山猫を説明する。
ただでさえ聞き取りづらいのに、緊張でカサカサの唇が震えて何を言っているのか分からない。
村長の後ろに控えている村役場の職員たちも真っ青だ。
「ご老人よ。悪いが何を申しておるのか全く分からない。そちらの者に聞こう」
王様の家来の一人が呆れて俺を指差した。
「この猫は何故こんなに大きくなったのか、と王はお聞きである」
「普通に牛乳や肉の切れっ端を与えてました。特別なことは何もやってません」
でっぷり太って、下膨れの頬をつやつやさせている王様は、耳を寄せた家来の人に何やら囁く。
「1日にどれほどの餌を与えているのか、と王はお尋ねである」
「今は食べなくても大丈夫です。理由は俺も分かりませんが、元気です」
王様は再び家来の人に耳打ちし始める。
直接言ってくれればいいのに、偉い人のすることは分からん。
「普段この猫は何をしているのか、と王はおっしゃっている」
「何もしてないです。 ずっとここに座って、村を見てるだけです」
な、と山猫に同意を求めると、山猫はゆっくりと瞬きをした。
大きくなってしまってから、山猫は動作がゆっくりになった。
子猫の時はちょこちょことすばしっこく俺について来る姿が可愛かったのに。
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