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王様はもごもごとおちょぼ口を動かした。
何か言ったようだが、俺には全く聞こえない。
助けを求めるように家来の人を見る。
「王よ、もう一度おっしゃって頂けますか」
家来の人が耳をぐっと王様の口元に近づける。
王様の言葉を理解すると、家来の人は呆れたようなうんざりしたような微妙な顔で俺に言った。
「……王はこの猫を宮廷に連れて帰りたい……とのご希望だ」
「そ、そそそそそそれは」
村長が飛び上がって王の前に跪いた。
今では村の顔となった山猫を連れてかれて、一番困るのは村長なのかもしれない。
「やまややまやまやねこはうううちのむっむらに……」
ごめん、村長。
俺も何言ってるか分かんないよ。
「……この猫を世話しているのはそこの少年のようだし、君に聞こう」
家来の人は再び俺を指名した。
答えなんか決まってる。
「こいつはうちの村の大事な猫なんです。王様、すみません」
俺も村長にならって膝をついた。
両手に収まるような小さな子猫の時から成長を見守ってきたんだ。
俺より大きくなって、馬より大きくなって、教会より大きくなったからってなんだ。
これからも俺が山猫をブラッシングしてやる。
黙ったままの王様が怖くて、不敬かとは思ったが顔を上げた。
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