晴れた日は散歩に出よう。

2/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
秋晴れは何処へ。連日続く季節外れの長雨により、日本列島が沈んでしまうんじゃないかと心配になってくる。そんなジメジメした空気とは全く関係ないのだが、俺はどんよりとした気分で、六畳一間のアパートの一室でゴロゴロしていた。 先日。人生最大の勇気を振り絞り。好きだったバイト先の子に告白した。 結果は・・今の天気なんかより。俺の心を暗く落ち込ますには十分の成果を見せてくれた。 何もやる気がしない・・・そもそもこんな雨じゃー外に出る気もしない・・ 「バイトも休みだし・・ゴロゴロしているのは勿体無いとは思うけど・・」 そう独り言を言いながらも、天井のうっすら浮かび上がっているシミをじっと見つめていた。 (あんなシミあったっけ・・・) 薄いグレーのそのシミをじっと見ていると・・・それは何か意味のある形に見えてくる。 「何かの動物・・そう・馬・・いや・・ラマに見えるぞ」 馬とラマの細かい違いなどわかっていないけど・・俺の中ではあのシミはラマだと決定した。 そのまましばらくラマのシミを見つめる俺は・・唐突に我に帰る。 「何やってるんだ俺は!」 そこで初めて気がついた。窓から光が差し込み。ボロアパートの屋根に響いいていた雨音が止んでいることに・・ 失恋による、この重い気持ちをなんとか振り絞り。窓を開いた。 雨上がりの湿った匂いと、日差しの暖かい光がほんの少しだけ、気持ちを軽くする。 ボロアパートの二階から見える景色は、お世辞にも美しいものではない。しかし昭和の下町の風景が滲み出ているそれには、独特の魅力を感じる。 狭く密集した建物の間に置かれた自転車のサドルに、先ほどまで降っていた雨が屋根を伝い、滴となって落ちている。 何気なく見たその風景に、俺は少しだけ積極的な気持ちになっていた。 椅子の上に無造作に置かれたズボンを履き。カーテンレールにかけているハンガーからジャケットを取るとそれを羽織った。 机の上に置いてあった財布とスマホをボディバックに入れるとそれを背負う。 ここに引っ越してきてまだ2ヶ月。家の周りもまだ知らない所ばかりである。丁度良い機会なので近所を探索することにした。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!