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玄関を出て鉄製の階段を降りると、いつもバイト先に行く右方向ではなく。左の方向へと歩みだした。
家から二軒先の古風な家の前で、さっきまで雨が降っていて必要ないと思うのだけど、なぜか近所のおばさんが鉢の花に水をやっている。面識はないけど、目があったので軽く会釈する。すると硬い表情だったおばさんが微笑み話しかけてくる。
「こんにちわ。あんた平和荘の人だよね」
うちのアパートの名前を呼ばれる。
「そうです。2ヶ月前に引っ越してきました」
「そうかい。平和荘の大家とは同級生なんだよ・・それでね」
そこからおばさんの世間話が始まり。しばらくそこで足止めされた。
なんとか話を切り上げて、俺はその場を後にする。それでも歩き去る俺をおばさんは後ろから何やら話しかけている。そんなおばさんに、少し振り向きながら苦笑いでそれに答える。
これは少し不味いな・・これから顔を合わす度に長話をされそうで怖い。
俺はおばさんの視界から外れるために細い路地に曲がる。そして人が一人何とか通れる狭い道を歩いていく。
そこへ道の脇のブロック塀の上を、我が物顔でブッチャーが歩いてくる。ブッチャーとは俺が勝手にそう呼んでいる近所に住む野良猫である。
引っ越ししたその日に出会い。ちょっと太ったブチ猫だったのでブッチャーと名付けた。
ブッチャーはブロック塀の上から下に飛び降りてきた。ちょっと太ったその体では少し高かったのか、着地の時によろめいた。それを恥ずかしいと思ったのかは定かではないが、俺の方をチラリと振り返り見つめる。俺はニヤリと笑ってやる。それで気分が悪くなったのか、プイと目をそらして、そのままノソノソと歩いていく。
俺はブッチャーのあとに続いて歩いていく。前を歩く太ったブチ猫はものすごく自然に堂々と歩く。この道はこいつの縄張りなんだろう。すごくしっくり来るその姿になぜか軽く嫉妬する。
「ここはお前の散歩道なのか?」
返事をしてくるとは思わないけど話しかける。
そんな俺の問いかけなど無視してマイペースに歩いていく。それでもめげずにさらに話しかける。
「どこを目指してるんだ?餌をくれる人がいるのかい?」
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