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しばらく座り込んでいたブッチャーは不意に赤い屋根の家の二階を見上げる。それと同時に何やらゴーンゴーンと音が響いてきた。おそらく赤い屋根の二階に大きい時計でもあるのだろう。時計を見ると丁度12時になったのでそれを知らせるものだと思う。
それを聞き終えるとブッチャーはゆっくりと立ち上がる。そして名残惜しくもう一度赤い屋根の家をチラリと見るとトボトボと歩き始めた。
俺と彼女もそれを追って歩き始める。ブッチャーは赤い屋根の家の脇にある細い階段をどんどん下りていく。そのまま下の大きい道まで出ると歩道をトコトコと歩いていく。
しばらくそのまま進み。小ぢんまりとした昭和の香りのする店構えのお肉屋さんの前で止まる。お肉屋さんのおばさんがそれに気付きブッチャーに近づいてきた。
「お前また来たのかい。まーこれが目当てなんだろうけどね」
そう言ってコロッケを一つブッチャーの前に置く。それをボソボソと頬張り始める。
彼女はそれを見て慣れたようにおばさんに注文する。
「おばちゃん。私もコロッケ一つとメンチカツ一つ頂戴」
「あいよー。あんたも最近よく来るよね」
それに対して彼女は満面の笑みで返す。そのやり取りを見ていて俺もそれが欲しくなった。
「おばさん。俺にも同じものをください」
「あいよー。あんたは新顔だね」
出来立て熱々のコロッケとメンチカツは絶品だった。そういえば出来立てのコロッケなんて食べたのは初めてかもしれないな。
「美味すぎるよこれ!」
「そうでしょうそうでしょう。ブッチャーの追跡での一番の楽しみがここなのよ」
肉屋のおばちゃんは親切に俺たちにお茶を出してくれた。お茶をチビチビ飲みながらコロッケをぱくつく。これは癖になりそうだな・・・
幸せそうにコロッケを食べる俺たちを見ておばちゃんは意外な話をし始めた。
「この猫ちゃんも昔はうちのコロッケなんて見向きもしなかったんだけどね・・」
「え・・それってどういうことですか?」
「前はね。ちゃんと美味しい餌を鱈腹もらってたんだよ。そこの上に行った所にある赤い屋根の家でね」
「そうなんですか。今はそこではもらえないんですか」
そう聞くとおばちゃんは少し悲しそうな顔をしてこう話してくれる。
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