次の快速列車が来るまで

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「結婚は?」  未婚女性に対する禁句の一つですよ、それは!  しかし、ここで苛立ちを見せるのも大人気ないので、若干引きつった笑みを作って私は両手の甲を見せて差し上げた。 「この通りですけど」  指輪の跡形もない綺麗な指でしょう。ふふん。 「そっか。同じだね。俺もまだ結婚していない」  気を遣って同じと言って頂かなくて結構です。未婚は同じかもしれないけど、理由は明らかに違う。私は本当にそういう相手が影も形もないからだけど、彼の場合は引く手あまたの中、結婚していないだけでしょうから。  などと考える私はひねくれ者でしょうか。ええ、少しくらいは自覚がございますよ。 「そう言えば、今もピアノを続けているの?」  ピアノ? 確かに中学生頃まではよく発表会にも出ていたけれど。  と言うことは、彼もまたピアニストか、あるいは発表会で優雅な鍵盤さばきと気品溢れた私の姿を見初めた観客の一人とか?  ……すみません。後半、ちょっと夢見過ぎました。 「いえ、今は。高校に上がって勉強も忙しくなって、やめたの」  何よりも突起した才能もなかったし。 「そうなんだ」  上手だったのにねと彼は続けるも、母親が子供に上手ねーと言うくらいの軽さしか伝わって来ないのだけれど、まあいいでしょう。 「住んでいる所は今も実家?」 「ああ、うん」  今も実家かと聞いてくるという事は、やはり同じ地域、もっと言うと同じ中学校のようだ。もしかすると学校で何度かすれ違ったりしているのかもしれない。あと、音楽発表ではいつも私がピアノ担当だったからその時に見かけたとか。  だとすると、顔見知り程度の可能性が高そう。何より私は覚えていないし。 「そう言えば、最近、同級生とこんな風にたまたま会ってね、ほとんど顔を知っている程度の付き合いしかなかったんだけど思わず声を掛けてしまったんだ」  ほらほらほら!  やっぱりそうなのね。懐かしい顔を見かけたら、そんなに仲良くなくても話し掛けちゃう事ってあるもんね。私も大学受験の時に予備校で一緒の名前も覚えていない子だったけど、会場で出会って、お互い急に話した事あったわ。なるほど、そのパターンだったか。じゃあ、名前を覚えてなくても大丈――。 「佐藤さんもそういうの、ある?」 「っ!?」  い、今、私の名前を言った! ……となると、ほ、本当に知り合いですか?
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