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「私、知人から聞いたので、だ、大丈夫です!」
「へぇ」
薄く笑みを浮かべる彼に思わず顔が強ばった。や、やっぱりこれに正解はないのか。
頭を抱えそうになったその時。
「良かった」
彼はふわりと笑った。
「俺、実は同級生にそれで捕まってね。だから気を付けてと言いたくて」
って、単なる忠告かーいっ!
そっか、知っていたんだと彼は続けるが、私はただただ脱力した。
それならそうと先に言ってという話だけど、まあ、良かった。あ、さっき最低とか憎いとかイケメン滅べとか、すみませんでした。滅びないで下さい、イケメン(合掌)
それにしても、こんなリア充の彼に仕掛けようとしたその同級生の心臓、毛が生えてるね!
密かに感心していると、彼は爽やかに笑った。
「でも町で偶然、知人に会うと楽しい気持ちになるよね」
そう言えば結局、彼は誰ですか? ……会話も心もそろそろ限界が近付いて来ているなぁ。
どうすべきか思案していると、ホームに軽快な音楽と共に電車到着のアナウンスが流れてきた。
救いの神とはまさにこの事!
「あ、電車が来るね。短い時間だったけど楽しかった。私、行くね。ではまたね!」
今まで会わなかったのだから、今後だって早々会う事はないはず。ここは逃げるが勝ちでしょう。
素早く立ち上がり、足を一歩前に出したその時。
くいっ。
腕を引かれた。もちろんその腕を引く相手は彼だ。
「佐藤さん」
「は、はいぃっ?」
「快速列車に乗って帰るんだよね。あれ、各駅停車だから」
「……ソウデスネー」
私は力なく腰を下ろした。
「何か困っている?」
眉を下げて気遣ってくれるあなたに対して、今更あなたの事など知らないとどうして言えましょうか、いや言えませぬー。
「そ、そんな事ないよー? あなたがイケメンだから緊張しているだけじゃないかな?」
とりあえず、うふふと笑って誤魔化してみる。
すると彼は一瞬声を詰まらせた後、ふーん、と低い呟きを漏らした。
「結局、お前も顔ってわけか」
ん、え? 何か声の色が。
不穏そうな雰囲気に彼の顔を見ると、彼は唇の端を上げて皮肉そうに笑っていた。
な、何ですか? いきなり態度が変わりすぎではないでしょうか。しかもこの口調、どこかで覚えが……ある?
「まだ俺の事を思い出さないんだ、佐藤里香」
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