次の快速列車が来るまで

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 バ、バレていたのか! しかも私の下の名前まで知っている! 「俺はすぐに分かったっていうのに」  一般的に女性は化粧で雰囲気がごろっと変わるはずだけど、私にはその効能を発揮してくれなかったようです……。  まあそれは脇に置いて、彼は私が覚えていないと分かった上で、試すように核心から遠からず近からずばかりの会話をしていたって事なのね。 「それで私があなたの事を覚えていないと分かっていて、駅に降ろした理由は何?」 「面白そうだと思って」  彼の態度の豹変具合を見ていると、それだけだとは思えないなぁ。 「もしかして私に何か恨みでもある?」 「……別に」  そう言う割にはさっきとは打って変わってツンツンした態度じゃないですか。うーん。とりあえず揺さぶってみましょうか。 「私、あなたを振った覚えはないんだけど?」 「当たり前だ。振られた覚えはない!」  へーへー。平凡独女がイケメン様相手に身の程知らずの言葉でした。すみませんね! 「クラスメートだった?」 「違う」 「部活で一緒だったとか?」 「違う」  あ、そもそも私は帰宅部でした。となると、後は習い事かな。 「あなたもピアニスト?」 「違う」  でも他には塾通いしかな――。 「あ! 塾で隣の席だった!?」 「今頃かよ」  塾でしか話した事がなかったから覚えてなくても仕方がないでしょうよ。……彼が覚えてるのはスルーの方向で。  私は不服そうな彼を改めてまじまじと見つめた。 「言われてみれば面影が残っているかも。でもあの時、もっとぽっちゃりしていたよね」 「高校に入って痩せたからな。身長が一気に伸びたのもあるし」 「ふーん。そうですか。で? さっきの言動というのは、痩せたら手の平返しでいきなり女性にモテだしたとかですか?」 「さあな」  だからツンとするのはおやめなさい。なまじ爽やかイケメンなだけに面白いですよ!  何だか、段々と楽しくなってきた。 「それで性格悪くなっちゃったんだ? あ、昔からか」 「昔からって何だよ」 「何かと私に突っかかってきたじゃない」 「それは――」 「あっ! お、思い出した!」  彼が何かを言おうとした時に、不意に記憶が蘇って声を上げた。 「私、あなたに嫌いって言った覚えがある」 「……そうだよ」 「なるほど、そういう事」  不満げに顔をしかめる彼にピンと来た。
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