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「蝶飛ちゃんはねぇ、バットを携帯する女の子なのぉ」
「怖いよ。そんな女子高生嫌だよ」
ヒロちゃんの顔が引きつった。
むぅー。たしかに変わった子だけど、そんな顔しなくてもいいじゃない。バットを携帯することと、わたしと結婚しようとしていることを除けば、基本的にいい子だよぉ?
……ま、まぁ、その二つの要素が「変わった子」の大きな原因なんだけどねぇ。
「バットを携帯……意味がわからないわ。その子は誰かの用心棒か何かなのかしら?」
香名ちゃんは眉をひそめた。用心棒とか、どんな闇を抱えた女子高生なのよぅ。そんなに真剣に考えられても困る。わたしだって説明できないもん。
「ちょ、蝶飛ちゃんの話は置いといてぇ! このバットをどうすればいいのか悩んでるのぉ」
「なるほど。家に置いても邪魔だし、背中に忍ばせておくのも変。かといって、心のこもったプレゼントを捨てるわけにはいかないってことね」
香名ちゃんがわたしの顔を見て微笑んだ。
「そ、そうだけど……なんで笑顔なのぉ?」
「私だったら速攻で捨てるけど、ひーなは友達に貰ったものだから捨てたくないのよね? ひーなは優しい子だなぁって思ったのよ」
頭を撫でられた。ほっぺが、かぁっと熱くなる。
「べ、べつに優しくないよぅ。本当に優しかったら、嫌でも常にバットを携帯するでしょ?」
「それだと嫌われないように友達に合わせているだけじゃない。そんな自分のことだけを考えている保身的行為は優しさじゃないわ。ひーなは友達のことも考えているから優しいって言ったのよ」
香名ちゃんが再び頬を緩めた。
な、なんなの? どうしてわたしを褒め殺しするの?
褒められたことが恥ずかしくて黙っていると、ヒロちゃんが金属バットを手に持った。
「部室に置いておけばいいんじゃねぇの?」
「え……い、いいの? 私物だけど……」
「おいおい。部室に私物を置くのは普通だろ。なぁ、香名?」
「ええ、そうね。ひーなさえよければ、部室に置くといいわ」
二人は笑顔でそう言った。よかった。ちょっと困ってたんだぁ。
べつに蝶飛ちゃんが悪いわけじゃないけど、さすがに四六時中バットを背負うのはちょっと抵抗がある。でも、友達の気持ちのこもったプレゼントを処分なんてしたくないし、かといって家に置く場所もない。それでみんなに相談したのだった。
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