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「ありがとねぇ、二人とも」
「いいのよ。それよりも、お願いがあるんだけど」
「え? な、なぁに香名ちゃん?」
尋ねると、香名ちゃんの瞳がキラキラと輝いていることに気がついた。穢れのない、純粋なまなざしをわたしにびゅんびゅん送ってくる。
ううっ……今日は香名ちゃんの奇行と戯言に振り回される予感がするよぅ。
「ねぇ、ひーな。素振りしてみてもいい?」
香名ちゃんが鼻息荒くわたしの手を握ってきた。
「いいけど……室内だから気をつけてよぉ?」
「わかったわ。ヒロ」
「はいよ」
ヒロちゃんは持っていたバットを香名ちゃんに手渡す。
わたしとヒロちゃんは香名ちゃんと少し距離を取った。だって、ぶつかったら怪我しちゃうもの。
「九回裏でツーアウト。点差はナシ。ランナーは三塁ね。一打勝ち越しのチャンスという設定はどうかしら?」
「燃えるな。いいと思うぜ、香名」
ヒロちゃんが親指をグッと立てた。わたしは野球のこと詳しくないけど、その状況が盛り上がる場面だということくらいはわかる。
うん……まぁ、ただの素振りだから、設定必要ないと思うけど。
香名ちゃんは打席に立つ演技をしてバットを構える。軽く素振りをしてみたけど、ちょっと体の動きが変だ。ギクシャクしているというか、なんだか振りにくそう。
「おい香名。それじゃあ逆だろ」
ヒロちゃんが、香名ちゃんのバットを持つ手を指さした。
「えっ? 逆ってどういうことかしら?」
「バットを握る手のことだ。お前、右利きだよな? だったら、右手が左手の上にこないと上手く振れないだろ」
よく見ると、バットを持つ香名ちゃんの手は左手が上にきていた。
香名ちゃんはバットを持ち直して、再び素振りをする。へなちょこだけど、さっきのような不自然さはなくなった。
ヒロちゃんすごいなぁ。わたしはこういうの全然わからないや。
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