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ある雑居ビルの4階。
扉には「陰陽出張所」と張り紙がされている。
その部屋には応接セットと小さな台所、奥に机と椅子が置いてある。
扉から右手には本棚が並び、左手と奥には窓がある。
ソファに寝転がっているこの部屋の主、この小説の主人公であるおんみょうじさんは、天下の台所大阪で陰陽術を使った探偵業のような商売をしていた。
猫の捜索から殺人事件までどんとこい、という感じである。
実際には殺人事件の解決依頼など来たことはないのであるが。
陰陽術を使うような依頼はほとんどなく、やれ飼い猫がいなくなっただの、やれ浮気調査だのといったよくある依頼ばかりである。
今日は朝から家主のおじいさんとおしゃべりをして時間をつぶしてしまった。
孫の話やこのビルの話などを聞かされて疲れてしまった。
もう今日はやる気がでないなあとソファに寝転がってうとうとしていた。
その時である。
「こらあああああ!!!!!」
扉が勢いよく開かれ、一人の少女が大声をあげて入ってきた。
突然のことにびっくりしたおんみょうじさんは、ソファから転げ落ちてしまった。
少女はおんみょうじさんに近づくと、胸倉を掴んで顔を近づけた。
「あんたなあ!用事が済んだら連絡するゆうたんちゃうんか!あたしずっと待っててんで!」
大阪弁でまくしたてる少女、先ほど出てきた藤堂聖子である。
聖子はおんみょうじさんの懐から携帯を取り出すと、メッセージが未読であることを確認し、
「やっぱりなあ!あんたあたしの送ったメール読んでへんやんか!こっちは3時間ずっと立っててんで!分かってるか!」
おんみょうじさんを揺さぶる聖子。
とりあえずいらだちと怒りを言葉にして落ち着いたのか、手を離すと向かいのソファに座った。
解放されたおんみょうじさんはようやく一言発した。
「びっくりした…」
「びっくりって、あんたなあ…なんかあるやろ?ほら」
「何か…ああ」
おんみょうじさんは少し考えてからひらめいたように言った。
「今日のわんこは…
「違うやろ!絶対に違うやろ!」
聖子のツッコミが入る。
おんみょうじさんは少しがっかりした顔になる。
「じゃあ…?」
「いやいやだからなあ、あたしを3時間も待ちぼうけにしたわけやん?それに対して何か一言ないんかなあ?」
「ああ…お疲れ様です」
「なんでやねーん!」
大阪名物のなんでやねんが部屋に響き渡った。
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