3人が本棚に入れています
本棚に追加
【前提1:ここは人を殺すと化け物になる世界】
「どうしよう、お父さんを殺しちゃった」
丑三つ時、2LDKの質素なアパートのリビングで、今まさに殺人が行われたところであった。
加害者となった17歳の少女は、現状を認識するために、か細い声で言葉を紡いだ。
その体は震えていたが、それは人を殺してしまった自分自身への恐怖からくるものではない。
血の繋がりが無いとはいえ、自身の娘に淫らな行為を強要しようとした
義父への嫌悪感からくる震えである。
少女は、はだけた衣服もそのままに立ち尽くし、下半身を露わにして血だまりに突っ伏している
養父を見下ろしていた。
養父である三条薫は、帰宅したばかりの少女に突然後ろから組みつき、
強引に衣服を剥ぎとろうとしてきた。
少女は必死に抵抗し、最終的には飾ってあったトロフィーを手に取り、
養父の頭部を強かに殴りつけて絶命させてしまったのである。
そのトロフィーは、少女がまだ幸福であった時分に
ピアノのジュニアコンクールで優勝した際のものであった。
あの時はまだ存命だった両親に支えられながら、抱きかかえるようにして家まで持って帰った。
だが、そんな平和は何の前触れもなく崩れ去った。
コンクールの翌日、少女の両親は交通事故で亡くなったのである。
そして、天涯孤独となった少女を引き取ってくれた人物が、
部屋の真ん中で絶命している男なのである。
その善意には裏があった。
幼いながらも美しく、悲しみに沈む少女の横顔を見て、あろうことか三条は欲情していたのだ。
いつか彼女が成熟した暁には、自分がその純潔を奪い、
悲しみに歪む顔を眺めながら精を放ちたい。
三条は胸の奥にそんな劣情を抱きながら、少女「魚躬ゆりか」を育ててきたのである。
最初のコメントを投稿しよう!