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「どうしよう、人殺しになっちゃった」
その目は虚ろであったが、少女の脳内では幼い頃から繰り返し教わってきた事柄が浮かび上がっていた。
とりわけ、熱心に教鞭を執っていた中学生時代の社会科教師の解説が、
明確に思い起こされた。
「殺人を行った人間は、『Variant』……日本語では『異形体』と訳されていますが、そう呼称される個体に変異してしまいます」
「理性を失い、他の動物を想起させるような外見・性質に変異していくことが確認されていますね」
「わが国においては、ヴァリアントになった時点で人権は剥奪されてしまいます。まあ、これは当然の措置ですね」
「そして、変異時にヴァリアントの身体から外部に放たれる生体電気は、世界規模で設置されているレーダーシステムにより、即座に感知されます」
「ヴァリアントへの変異反応を感知した所轄の警察署は、『害獣駆除』の名目で、即時特殊部隊を出動させます」
「ヴァリアント駆除専門の特殊部隊は、設立者の名を冠して、通称『蜂須賀隊』と呼ばれていましたね」
「近年は諸外国との連係を図っての事でしょうが、『AVS』という名称を公式に使用していますので、皆さんはこちらで覚えましょう」
「ヴァリアントの発生を感知してから、蜂須賀た……や、失礼。『AVS』が駆除を完了するまでの平均時間は、概ね1時間以内とされています」
「これは諸外国と比較しても高水準な処理速度であるとされていまして、日本国の駆除システムが非常に優れている証明で……」
全ての内容を思い出す前に、自分自身がもうじき人外に変異してしまうという事実に思い当り、
少女の全身が凍り付く。
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