第1章

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路線が廃線になる。文面ではこんなに簡単に現せること、だけど本当は絶対にこんな言葉じゃ現せないことは知っている。かの新潟の路線は、東北の路線は、上官が来たことで路線を分断された。そもそも何でわざわざ新潟に来たのか解らない。何か引かれるものが有ったのだろうか。 「お前が、信越本線か」 日本海側から新潟に入って、今は新津にいる。カラフルなマフラーとスカイブルーの制服を纏った彼は、突き当たりの窓で外の雪を眺めていた。俺の声が聞こえたのか、彼はゆっくりとこちらを振り向く。 「こんにちは」 外じゃ寒いですから、と改札内の待合室に案内されて、中で暖かい飲み物を買う。 「わざわざ新潟にいらして、どうかしたんですか?…函館本線さん、東海道とか北陸から話は聞いていましたよ」 「俺も敦賀から良く話を聞いていたよ、可愛い末っ子が生まれたってな」 「いつの話ですか、それ」 室内だろうと寒い、無意識の内に買った飲み物を握りしめる。北海道はもっと寒いはずなのに。こいつは二度も分断されてここにいる。その事実を再認識する。これから俺もそうなることが決まっている。廃線になる辛さはよく知っている。 「お前の、お前が走っていたのはどんな所だったんだ?」 彼の目が見開かれたのがよく分かった。直ぐに前を向いて、俯いて、彼は昔の己の路線の話を始めた。 「俺が、俺が走っていた所は、山と湖に抱かれた町でした。田舎だったけど、静かで、沿線の皆さんは優しくて…、ってすみません。実はよく思い出せないんです。」 そう言うと彼はニコリと笑った。彼は話を続ける為に息を小さく吸い込んだ。 「だけど、一つだけ確かな事があって、あの峠を越した先にあったのは、光と緑に溢れた素敵な場所だったって事です。この峠を越えてよかったって思えるような素敵な場所だって。」 ってすみません俺の電車でちゃう、と慌てて去っていった信越によって雑談タイムはいきなり打ち切られた。 去り際に「ここの名物なんです。お土産にどうぞ」と渡された三色団子と、結局飲まず終いだった飲み物を自分のバックに仕舞う。俺もそろそろ行かなきゃ長岡行きの電車が出てしまう。待合室を出てホームに向かう。偶々窓を見やれば、信越が乗っただろう新潟行きが発車した所だった。 「結局あいつの本音は聞けなかったな」 発車ベルが聞こえる。俺は階段を駆け降り、発車間際の信越線に飛び乗った。
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