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星は全て姿を消した。
月も太陽も姿を消した。
広大な地下空間の中で、一部屋だけを照らす電灯が地に落ちた星の代わりを担っている。
彼は幹線道路沿いを歩き続ける。完全に自動化されたかつて自動車と呼ばれたものは、テールライトをはじめとする他者へ存在をアピールする類ものものは全て無駄なものとして取り払われている。その代わり内部は各々自由にカスタマイズができるようになっており、テレビや映画はもちろんの事、睡眠もとれるようにベッドまで装備するものがいるほどだった。
主要な幹線道路の一つであるそれは、他の幹線道路と同様に地下空間中央にある巨大な塔へと向かっている。車内を照らすルームライトによって、天の川のように輝き流れていく。
彼のほかに人はいない。
皆が皆、自動化された殻の中に閉じこもり、ある者は本を読み耽り、ある者はゲームを楽しんでいる。明るい天の川から目を背け、手にしていた袋を持ち直す。その時、重くはない袋が破れた。空いた穴から米が零れ落ち、不要なはずの側溝に吸い込まれていく。慌てて持ち直した時にはすでに遅く、ほんの一握りの米がかろうじて残るだけだった。 彼は大きくため息をつき、袋ごとポケットに突っ込んだ。背中のカバンが重くのしかかる。今すぐカバンを放り出してしまいたい気持ちに駆られるも、こればかりは唾と共に飲み込んだ。
道路から外れ、暗がりの中へと進んでいく。生活圏であるプラントと、本当の意味での屋外とを繋ぐ巨大な換気口が常に大きな唸りを上げており、耳鳴りにも似た擦れた音が頭の中で反響する。彼は古びたコンクリートの建物のドアノブをそっと回す。しかし扉は何かが挟まっているのか、少しだけしか開かなかった。カバンを降し、両手で力を加える。扉が悲鳴を上げ始める。一層強く体重をかけたとき、ついに限界を迎えた扉は番を振り切り彼に覆いかぶさった。
やっとの思いで扉をどかし立ち上がる。カバンを一度家の中へと放り込むと、壊れた扉を拾い上げ入り口を塞いだ。中は中で外と変わらず非常に暗く、家にしては以上に長い廊下の先で部屋灯りが付いているのが見える。彼は埃にまみれ、薄汚れた廊下を進む。
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