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野球にサッカー、デジタルのサバイバルゲームのスポーツから、音楽ライブに記念式典まで幅広く多目的に使用されてきたアリーナに、選手さながら入場する。幼いころに一度だけ来た事があったが、その時は光に溢れ輝いていた。今はアリーナの闇が彼を包み込み、遠くに非常灯が灯るだけとなっている。
彼は座り込み、鎧の隙間から菌塊じみたものを取り出そうとした。力任せに鎧を捻じ曲げ、内部を露出させる。菌塊と鎧を結合していた繊維物が千切れ、激痛をもたらす。彼は一度手を止めた。由依を助ける事だけを考え中に飛び込み、菌塊と同化したが彼自身も脱出する方法は知らなかった。仰向けに倒れこみ、片腕を枕代わりにする。コンクリートの床が固く、彼の体を痛めつけた。
突如として施設内の照明が作動する。眩い光があらゆる方向から包み込む。ローター音は聞こえない。しかし小刻みな振動がコンクリートの床から伝わっていた。彼は起き上がり、ローター片を手に取る。アリーナ中央の床が四角く開き、一つの巨体が姿を現した。
彼と同じ金属の巨体。それが彼の前に立ちふさがる。内部の繊維と結びついたナイフを取り出し、彼に向かって切りかかる。彼はローターを使って受け流し捨てると、両手で巨体に組み付いた。互いの装甲が悲鳴を上げる。
そのまま彼は押し倒し、さらに相手を掴む手に力を加える。隙間から赤色の液体が零れ出てくる。みるみるうちに相手の手から握力が抜ける。そして頭部に向かって拳をフル下した時、相手は腕だけを使い彼を引き寄せた。
先ほど彼がめくった鎧の場所に、冷たいものが突きつけられる。彼は急いで振りほどこうとするもすでに遅く、守る物がない菌塊に直接相手は発砲したのだった。
彼の巨体から急速に力が抜け、相手の巨体の上に倒れこむ。アリーナの天井が開き、上から三枚羽が下りてくる。そして彼の巨体にワイヤーを撃ち込むと、ゆっくりと上空へと引き上げていった。
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