7 どりーむ

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7 どりーむ

それから、ネコさんの夢のような日々が始まりました。 カフェのバイトから帰ってくると、今まではテレビの前に座り込んでいたのに、晩ごはんを食べる間も惜しんで仕事机に直行です。 ブルーのグラデーションのセーターは、魚や貝で、海になりました。 濃紺のポンチョは、きらきらラメの星で、星空になりました。 ピンクのカーディガンは、桜の花びらで、花吹雪になりました。 ダークグリーンのワンピースは、雪の結晶で、北欧の森になりました。 初めて自分が手を加えた作品が売れたときの、うれしさ! お客様への感謝が心の底から湧き出てきて、本当の笑顔とお礼の言葉がこぼれ出ました。 そして、ネコさんはすぐ、自分の笑顔がお客様の笑顔も引き出すことに気がつきました。笑顔のお客様は財布のひもも緩みます。なんで、タダで出せるこんなに良いものを、出し惜しみしていたのでしょう。 それに、以前はなんで毎日あんなに疲れていたのでしょう。今は毎朝、エネルギー満タンで目が覚めます。バイトが終わってもエネルギーが余っていて、家に帰るのが楽しくてしかたがありません。 少しずつ、フクロウさんとネコさんの合作ニットの人気が、高まっていきました。 ネコさんは、フクロウさんのすすめで、ニットアクセサリーや小物も作り始めました。 ネコさんは、日数はちょっと減らしたものの、カフェのバイトもまだまだ続けるつもりです。以前はイヤイヤやっていたこの仕事も、今は楽しくて仕方ありません。 カフェのお客様だって、笑顔で笑顔を引き出せるのです。最近は、難しい顔のお客様からどうやって笑顔を引き出すか、勝負している気分です。店を出るまでとうとう一度も笑顔を見せなかったお客様には、その背中に向かって、自分の幸福を分けてあげるつもりで祈ります。 それに、お店にいらっしゃるお客様の服やアクセサリーを、そっとチェックすることが、今まで以上に楽しいのです。素敵だな、と思ったら、ヒマを見てはメモします。 お店のメニューも、ディスプレイも、季節感と人の心をつかむ工夫にあふれていることが今はわかり、とっても勉強になるのです。 お客様にも店内にも目を配るようになったからか、先輩たちから小言を言われることもほとんどなくなって、むしろ褒められることが増えました。 ところが、カフェであれこれチェックしていたのは、ネコさんばかりではありませんでした。
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