弓張の相聞

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 「忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで」    時期外れの風鈴にかき消されそうなか細い声で、しかし滑かに、雅を感じさせるような言の葉だ。心地よい和歌の響きは、それを発した玉木先輩の薄く艶やかな唇とひと続きであるようだった。  季節は秋。残暑が息を引き取って、木の葉が寂しく鳴く季節。  地上をまさに射んとする弓張り月が夜空に浮かぶ中、僕らは今、和歌を詠んでいる。
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