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玉木先輩の存在は、僕が文芸部に入るのに充分すぎる理由だった。
実は、僕も近代小説が好きだった。鏡花は高校時代に読み漁ったし、二葉亭四迷はまさに今読んでいる。漱石に至っては僕のバイブルになっている。いつか漱石の小説に登場するような女の子と付き合おう、それが僕の往年抱き続けた気持ちだった。
玉木先輩は一つ上の学年の二年生で、専攻も近代文学、所属サークルも文芸部という、絵に描いたような文学好きであった。部員として新たに加入した僕は、他の先輩や同期には目もくれず、常に玉木先輩を目で追うようになっていた。
幸いなことに、明治初期の愛読者は文芸部にも少なかった。だから僕と先輩が二人で会話をする機会は、必然的に他より多くなったのだった。授業が終わるとすぐに文芸部に足を運び、夜遅くまで玉木先輩と語り合う。観念小説や硯友社、博文館や予備門など、近代文学の黎明について、僕らはなんども論を交わした。それが僕の日常だった。
大学生活の一年目はあっという間に折り返しを迎えて、気がつけば銀杏が暖かに彩り始めていた。
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