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ドイツの夜は、日本よりも壮大で。
土地の広さもあるが、空が高く感じる。
響は、その空の下にいた。
「キョウ、お疲れ様。」
缶ビールを両手に、指揮者マティウスが声をかけた。
「お疲れ様。……やはり、あなたは凄い指揮だった。」
マティウスから缶ビールを1本受けとると、乾杯、と缶同士を合わせ、響のコンサートを労いあう。
「キョウ、日本に家族は?」
マティウスが不意に訊ねる。
「家族は居ない。残されたのは、俺ひとりだ。」
気まずそうな表情を見せたマティウス。響はそんなマティウスに微笑みかけて言う。
「でも、今は家族より大切な人がふたり、いるんだ。」
「恋人かい?」
冷やかすようなマティウスに、響は笑いながら。
「恋人……とは違うな。でも、絆は……確かにあるよ。俺は、いつかふたりの支えになりたいと思ってる。そのために、まずは俺が成長する必要があった。」
(さくらを支えきれなかったぶん、あのふたりは支えたいし、守りたい……)
その穏やかな表情に、マティウスが笑顔になる。
「世界一のピアニストにそう言わしめる日本人……女神かな?」
そんな冷やかしにも、響は頷く。
「……そうだな。俺には神々しすぎて、大変だ。」
響はそう答えると、顔を見合わせふたりで笑う。
「キョウ、君はこれからどこまで進むんだい?」
マティウスの問いはただの興味から。
もっと響と言う人間を知りたい、その意味しか持たないものだった。
「音楽で人を幸せにしたい。何か道を示したい。誰かの活力にしたい。」
星空を見上げる。
日本の空より大きく、そして星が綺麗に見えた。
「……キョウになら、出来るさ。」
マティウスも空を見上げ、微笑む。
(俺たちは……みんな同じ空を見るんだ。同じ空の下で繋がってる。そして、音楽だって……みんなを繋ぐ絆になるんだ。)
流星が、流れた。白く明るい尾を引きながら。
響は目を閉じ、星に祈った。
(さくら……歌を、届けてくれて、ありがとう。うた、奏……俺の背を押してくれて、ありがとう。)
祈りの先に思うことは、感謝。
支えられて生きている。
支えられて、音楽の道を歩いている。
支えられて、生きている。
響は、空をもう一度、見上げる。
「……今日は、星が綺麗だ。」
~Coda
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