終章 未来へ

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ゆっくりと緞帳が開いていく。 まだ開ききっていないうちから、観客から大歓声が起こる。 (相変わらず、とんでもない人気だな……) 全席プラチナシート。チケットは販売から数時間で完売。 各国の楽器のトップとも言えるメンバーが、軒並み名を連ねる、世界一の交響楽団。 そして、若くして『伝説』とも言われた、世界一の指揮者。 ドイツ交響楽団の演奏が、幕を開けた。 マティウスが、一同の先頭で、観客に向かい手を広げ挨拶をする。同時に、地鳴りのような歓声。 (凄いな……これが世界一の指揮者の影響力か……) ピアノの前に座り、まるで観客のように楽団を眺める。 それと同時に、マティウスの手が、ゆっくりと上がり…… 楽団員が一斉に楽器を構える。 (これが、一流の集まり……) そんな中、響はピアノの前に座ったまま、ゆっくりと会場の雰囲気を味わっていた。 演奏が始まる。 静かな曲の入りながら、それだけで響の身体に鳥肌が立つ。 (これは……マズいな。呑まれてしまいそうだ。) それぞれの楽器の、美しい音色に、うっかり聴き惚れてしまいそうになる。 マティウスは、そんな響の様子を見て、笑っていた。 「まるで、お客様だな……。キョウ、君はこの一流の団体の……」 マティウスのタクトが、響を捉える。 (……来た!) 響が、ピアノの鍵盤に指を静かに置く。 「……象徴となるのだよ。」 マティウスがタクトを振り下ろすと同時に、響がはじめの1音を鳴らす。 その完璧なタイミングに、観客が絶句した。 楽団員の視線を、射止めた。 (……面白い。マティウス、貴方の指揮で弾くのは、俺の夢のひとつだった。……楽しませてもらう!) 「ここまで、ついてきなさい、青年。」 マティウスのタクトが、まるで響を挑発するかのように振られる。 時に静かに、時に激しく…… 曲調に応じて感情を変えてくるマティウスのタクトに、響のピアノは寸分狂わず、そのタクトにシンクロしていく。 今度はマティウスが身震いした。 「おいおい……指揮者を呑んでくれるなよ、天才君……」 初めての世界的オーケストラ。 初めての世界的指揮者。 そんな環境に動じることなく、響のピアノは堂々と、荘厳に会場を支配していく。 (緊張で……指がつりそうだ。でも……) マティウスが、まるで子供のような笑みを響に向ける。 (……楽しい!) その視線を感じながら、響も子供のように無邪気な笑みを見せた。
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