終章 未来へ

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「響さん……フツーに弾いてるんですけど……」 二宮邸のリビングに特設されたスクリーン。 映画館さながらのセットで、奏とうたは世界一の交響楽団の演奏を聴いていた。 そして、憧れの人の演奏を、聴いていた。 「俺は、ドイツへ行く。世界一の楽団のオーディションを受けて、世界のレベルを目指す。それが、今の俺の、夢への近道だと思ってる。」 3人の、最後の夜。 ふたりにそう告げた響。 本当は、止めたかった。 憧れの人が、遠く海外へと行ってしまうのだから。 しかし、ふたりは止めなかった。 「響さんが、夢を叶えるなら……私は待つよ。」 「私たちは、貴方に近づくために、日本で頑張ります。」 同じ音楽を続けていれば……また、会える。 そう、信じていたから。 「大きくなったら、必ず会いに来る。今度は、お前たちの背中、押しに来るから。」 あのときの、響の爽やかな笑顔が、いとおしく…… ふたり同時に、響を抱き締めた。 困った響の顔が、印象的だった。 そんな響が、世界一の交響楽団で、弾いている。 「奏ちゃん、あの人、世界一の指揮者でしょ?」 スクリーン越しでも分かる。 響のピアノは、世界一の交響楽団においても、輝いていた。 「マティウス……世界一の指揮者。響さん……そのマティウスさんと、張り合ってるよ……」 奏の顔が真っ赤になっていた。 響に対する想いからか、世界一の指揮者と張り合っている、その驚きによる興奮か…… 「響さん……追いついたと思ったのに、あっという間に、離れてっちゃった……」 奏の目に、涙が溜まっていく。うたは、そんな奏の肩を優しく抱いて言う。 「いいじゃない、好きな人がこれだけ凄い人って、夢みたい!……響さん……いつも私たちを導いてくれるね……」 奏は、うんうんと、何度も頷くと…… 「でも、寂しい……ドイツは遠いよ……会いたいよ……」 我慢していた涙がこぼれた。 うたも、つられて涙ぐむ。 「うん……うん! いつか、会いに行こうよ。大きくなった私たち、見せてあげよ?」 画面の響に向かって、そう囁いた。 約一時間。 奏とうたは、ドイツの観客たちは、世界一の楽団員達が…… 響のピアノに引き込まれ、魅了されていった。 世界一の指揮者、マティウスも、すっかり響とのやり取りを楽しんでいた。 演奏が終わろうとしている。 響のピアノが、最後の見せ場を迎える……。
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