終章 未来へ

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二宮邸。 演奏を生中継で見終わり…… 奏とうたは、暫しの余韻に浸っていた。 「あー、私、ムリだわ。あの中に放り込まれたら、ピアノなんて、弾けない……」 ピアノ界のプリンセスが、力なく呟く。 「私も、あの中だと……声、出ないかも。」 日本の歌姫が、同じように呟く。 「あぁ……本当に響さん、世界の人になっちゃったんだなぁ……」 歓声を一身に受ける響を見ながら、奏が寂しそうに言う。 「世界は……遠いね。」 うたも今回ばかりは、その距離の遠さを感じ、寂しそうに同意した。 「でも、いちばんやらなきゃいけないことが、出来た!」 奏が顔をあげる。 「……たぶん、私もおんなじこと、考えてたと思う。」 うたが、隣で微笑む。 そんなうたの手には、SDカードの入ったクリアケース。 響から託された、さくらの新曲がそこには入っている。 「この曲は、ふたりに託したい。さくらのいるこの日本で……いつか、この蕾を咲かせて欲しい。俺が戻ってくるまで待ちきれるほど、さくらが気が長いとは限らないから。」 響は、日の目を見ることがなかったさくらの新曲を、うたと奏に託した。 信頼しているからこそ、大切な人の想い出を渡した。 そんな響の期待に応えたい。 そう思ってはいたのだが、簡単に曲として世に出すには、少しだけ、重かった。 「さくらさんの歌を、うたが歌って……」 「響さんの伴奏を、奏ちゃんが弾く!」 それぞれの未来へ歩き出した3人。 この曲『未来へ』は、そんな3人が未来の方向を向くための『鍵』であった。 「……ユニット名とか、どうする?」 奏が笑顔で聞いた。そんな奏は、もう案を決めていた。 「……決まってるでしょ? 私も、同じだよ。せーの、で言う?」 うたが笑顔を返す。 きっと、うたと奏は同じ答え。そして、きっと響も一緒にいたなら、同じ答えになっただろう。 『cherry blossom』 交わることの無かった人生。 それでもうたと奏ふたりの心を揺さぶり、先を行った人。 『未来へ』を聴いたときから、さくらの存在は、ふたりにとって『ライバル』から『もうひとりの憧れの人』へとかわった。 「ちゃんと世に出す!この曲がどれ程スゴいか、作った人がどれ程スゴいか、みんなに教える!」 「うん。私もそれに乗るね!」 日本の、ふたりの若い音楽家たち。 彼女たちは彼女たちの、未来へと向かう……。
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