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ある、冬の日の出来事。
「すごいね!!私たち、1位だって!!」
積もったばかりの雪の上を、踊るように跳ねる、白いコートの女と、その後ろを少し離れて歩く、黒いコートの男。
「お前は顔すら出てないだろ。それに俺たちの曲じゃない。カバー曲だ」
「カバーだって、私たちが歌って、あなたがピアノを弾いたの。私たちの曲だよ!」
男の言葉に、不満げな表情を浮かべる女。
数年ぶりに、カバー曲がランキングの1位となった。
「初雪」
懐メロの王道ともよばれたこの曲を、若い二人がカバーした。
覆面歌手『SAKURA』と、
天才ピアニスト『麻生 響(あそう きょう)』。
世界的コンクールで入賞を果たし、その若さとルックスで一躍時の人となった響。
そんな彼が突然、覆面歌手の伴奏でCDを出した。それもカバー曲で。
「あれ、もしかして・・・」
「ピアニストの麻生??」
「ホントだ!私大ファン!!」
「あ、こっち見た!!」
道行く人が騒いでも、二人は全く気にしない。
「まさか、天才ピアニストが、私のような幼馴染を抜擢してくださるとはねぇ・・・。でも、今度はオリジナルの曲、作ってよ?」
白いコートの女、彼女が『SAKURA』その人。小さい時から響のピアノを聴いて育った、響の理解者の一人であり、幼馴染。
『SAKURA』には、幼い時からずば抜けた歌唱の才能があった。
そんなさくらに、ある日響はこう、声をかけたのだ。
「歌ってみないか?」
たった一言。だが、この一言がふたりの運命を変えることとなった。
『天使の声』
SAKURAの歌は、たちまち話題となり、口コミで世間に広まっていき・・・
発売から3週間。『初雪』はランキング1位となった。
「お前の歌は通用する。それを示したかっただけだ」
無表情のまま、響はつぶやく。
「なーにー?きこえなーい!!」
遠くから大きな声で聞き返すSAKURA。
そんな彼女に、雪玉を当てる響。
「なにするのよーーー!!」
遠くで頬を膨らませる彼女に、小さく笑う響。
「いつか、オリジナルの曲を作ろう。俺とお前が納得できる、最高の曲を……。」
肌寒く、真っ白な雪景色。
凍える寒さの中、ふたりの間には温かさがあった。
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