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自分の思うままに、指を運ぶこの曲は、SAKURAのために書いた、新しい曲。
その曲には、やさしさ、そしてあたたかさが溢れていた。
ゆっくりと、1音1音、確かめるように、確実に鍵盤を弾いていく響。
ピアノ室の中は、もはや響だけの『空間』となっていた。
そんな空間の外側。
ピアノ室の温かさとは正反対の、冷たい屋外。
音楽教室の冷たい外壁に背をもたれ、少女が頭上のから流れる音を聴いていた。
「なにが未来にピアノが必要ない、よ・・・。こんなに素敵な曲が書けて、弾けるのに・・・!!」
少女はこぼれそうになる涙をぐっとこらえ、壁をとんっ・・・と軽く叩いた。
決して、響のことが嫌いなわけではない。
彼の音色は、いつだって彼女の心の氷を溶かし、ピアノに対する憧れを強く感じさせてくれた。
だからこそ、少女は憤るのだ。
こんなにあたたかな音色を、何故封印するのか、と……。
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