第1章  ピアニスト

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目を覚まさない、さくら。 静かな室内。 響く電子音。 ただ、過ぎていく時間。 そんな空間を壊したのは、看護師のノックの音だった。 「麻生さん……すみません。石神さんが……」 『石神』という名前に、響の表情が強張る。 石神とは、さくらを撥ねた運転手と、同じ苗字であった。 「お通ししないようにお願いしてあるはずですが」 看護師は決して悪いことをしているわけではないのだが、つい口調が冷たくなる。 「私もお断りしたんですが……今夜はどうしても、と。」 事情を知っているのか、看護士も対応してくれたのだろう。申し訳なさそうに響に告げる。 困った顔の看護師に、響はつい自分が興奮してしまっていたことに気付き、申し訳なさそうに頭を下げる。 「すみません。あなたのせいではない……」 そして扉の方を見る。小さな磨りガラスに映る、人影がふたつ。 良く、見慣れた人影であった。 「……俺が行きます。」 響は昂りそうになる気持ちを抑えながらも、人影の方へと向かった。
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