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目を覚まさない、さくら。
静かな室内。
響く電子音。
ただ、過ぎていく時間。
そんな空間を壊したのは、看護師のノックの音だった。
「麻生さん……すみません。石神さんが……」
『石神』という名前に、響の表情が強張る。
石神とは、さくらを撥ねた運転手と、同じ苗字であった。
「お通ししないようにお願いしてあるはずですが」
看護師は決して悪いことをしているわけではないのだが、つい口調が冷たくなる。
「私もお断りしたんですが……今夜はどうしても、と。」
事情を知っているのか、看護士も対応してくれたのだろう。申し訳なさそうに響に告げる。
困った顔の看護師に、響はつい自分が興奮してしまっていたことに気付き、申し訳なさそうに頭を下げる。
「すみません。あなたのせいではない……」
そして扉の方を見る。小さな磨りガラスに映る、人影がふたつ。
良く、見慣れた人影であった。
「……俺が行きます。」
響は昂りそうになる気持ちを抑えながらも、人影の方へと向かった。
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