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「4,580円になりまーす!」
響たち3人は、響の自宅近くのスーパーに来ていた。
奏が、次々と買い物かごに商品を投げ込んだ結果、3人でこの金額。
「えっと……もう少し、量減らしますか?」
奏の自由さに、少しだけ申し訳なさそうに言う、うた。
「響さーん! 私たちー、女子高生だからお金なぁい♪」
一方で、散々商品を投げ込んでおきながら、悪にれる様子もなく笑いながら言う、奏。
「……最初から、そのつもりだったんだろう?」
仕方なく、クレジットカードで結構な量の肉、野菜を購入する響。
正直、こうなることは予想外であった。
音楽教室に響を迎えに来たうたと奏。
ゆっくり話をしようと響を訪ねてきたので、響は音楽教室の応接室を借りようとしていたのだが……
「おなべのうたかぁ……お鍋……食べたいなぁぁ♪」
最近流行りの歌を口ずさみながら、笑みを浮かべる奏。
その隣で、申し訳なさそうに、それでいて何か期待しているような雰囲気の、うた。
「仕方ないな。鍋、食べに行くか。」
みらい市の夜は冷える。
響は馴染みの小料理屋へ行こうと提案したのだが……。
「こんな夜に女子高生ふたりも連れて歩いていたら、響さん絶対に職務質問されますよ?」
ここでも奏がイタズラっぽく口を挟む。
無理言っちゃだめだよ、と奏を止めようとするうた。
そんなうたの制止を振り切り、奏が言う。
「響さんの家、ここの近くなんでしょ?私、行ってみたーい!」
「……なんでそうなる…………。」
呆れる響。こんな夜に、思い付きで異性の家に来るものではない、と言おうとしたのだが……。
「あ……私も行ってみたい……かも。お鍋は私たちが作りますから……」
この、うたの一言が決め手となった。
多数決、2対1で、『響の家で鍋』案は可決されたのであった。
――――――
「ありがとうございましたー!」
元気のいい店員の挨拶を背に受け、すぐ近くにある響の自宅への道を行く3人。
「って、今からじゃ遅くなるだろう……のんびり食べている暇はないぞ?」
時計を見ながら、響がふたりに言う。
まだ、深夜というには時間は早いのだが、鍋を作り、食べ、ゆっくり話すには余裕がない。終電の時間も考慮しなければならない。
しかし、ふたりは顔を見合わせると笑い、
「オールでしょう♪明日は日曜日ですし!」
「お互い、ふたりで旅行に行くって言ってきちゃいました♪」
と響に言う。
「……な、んだと……?」
とたんに真っ白になる響の思考回路。
奏はともかく、うたは先ほどまで奏を止めていたはず。
それも演技だったのかと思うと、苦笑いが自然と浮かぶ。
「……女物の着替えなんてうちにはないぞ」
あまりにも急すぎて、着替えなどという陳腐な言葉しか出てこなくなる響。
「あー、その点ならご心配なく。用意してから迎えに来ましたから。」
「帰り道なので、駅前コインロッカーに寄ってくださいね♪」
もう、奏とうたが響の家に行こうと計画した時点で、この日は泊っていこうと計画していたのだろう。用意は周到になされていた。
「確信犯……め。」
苦笑いするも、家で旅行に行くと言っているのに追い返したら、二人に家で何を言われるか分かったものではない。
「酒は厳禁。他の決まりは帰ってから決めるからな」
まるで教師のような響。
最後まで、『女子高生を夜に家に招くのは如何なものか』と思い悩みながらも、押し切られる形になってしまった響なのであった。
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