都合と礼儀

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皆の手を握り終えた頃にはとっかえ様は静かに涙を流していた。 利用される事が当たり前になり、誰も信じられなくなくなって心を閉ざしていたのだろう。 だが、自分に対する感謝やお礼の気持ちを抱く人が居ることを知り暖かい気持ちを取り戻したのだろう。 「ありがとう。私、間違ってた。健司君を返してあげる」 とっかえ様は笑みを浮かべていた。騙す為の嘘ではない本当の笑みを。 「寂しくなったら、また来てください。俺の創ったお話してあげますから」 とっかえ様は嬉しそうに頷くと音もなく消える。 すると同時にぬいぐるみを抱えた男の子が現れる。 「君が健司君?」 「……うん。あれ、ここって僕の部屋?」
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