壊れる日常と一握りの希望

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「徳善、木の葉はすっかり赤や黄色に染まっちゃったよ。もうすぐ冬が来るんだね。一年がまた経っちゃうよ。まだ目を覚まさないの……」 寂しげに背中の男に女性は話しかけている。 背中の男は死んでいる様にぴくりとも動かない。 「すまないが道を案内してもらえないかな?」 習志野が話し掛けると女性は高く飛び上がった。 「わ、私が見えるの?」 それを聞いて習志野は目の前の女性が妖怪なのだと理解した。 「まあね。そういう体質なんでね。それで案内してもらえるのかな」 「良いけど人里の手前までで良いかな?」 「構わないよ」 これで帰れるのだと思うと習志野の心のもやは風に吹かれた様に綺麗に消えていた。
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