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部屋の窓際に小さな座布団が置かれていた。ふと懐かしくなる。ぎぃと音がした。 音のしたほうを見ると部屋の扉を開いて太った猫が部屋に入ってきた。実家で飼っている猫で名前はつくし。暖かい季節の三月に生まれたからつけられた名前だ。 日当たりの良い私の部屋が好きで窓際の座布団が特等席だった。 のそのそとした動きで座布団の前まで行くと私のほうを一度見て興味なさそうに視線を外すと座布団の上に座って丸くなった。 くぅ。このつれない態度が可愛いのだ。私は座布団の前にしゃがんで頭をゆっくりと撫でる。 おや? でもこの場所が小学校時代の私の部屋ならつくしはもっと若いはずじゃ? このころのつくしはまだ小さく太ってもいなかったはず? でも夢だしなぁ。そういうこともあるかと自分自身で勝手に納得した時、つくしが私のほうをじっと見つめていた。 まるで、私の瞳の奥をのぞき込んでいるような目。 つくしがゆっくりと口を開いて言った。 「気安く触るんじゃないぜベイビー」 「可愛くないっ!!」 私は思わず叫んでいた。 「姉ちゃん。最初の一言がそれかよ」 呆れたように半眼で見つめてくるつくしがやれやれと首を横に振る。 「でも。ほら。ね」 「もっと、なんで猫がしゃべるの? とかあるだろうがよ」 「それは、まぁ夢だし」 「実は結構大胆だなお前」 「ねぇ。つくし。そのしゃべりかたどうにかならないの? 私の中ではもっとおとなしいおっとりとしたお姉さん系の話し方のイメージなんだけど」 つくしの名前をなでながら私は言う。 「俺様のイメージを勝手につくるなよ。ベイビー。それに俺はオスだ」 「まぁ。そうなんだけど」 確かに私の中のつくしのイメージは私が勝手に作り上げたものだ。本人とは何の関係もない。 「それに本来俺様はそんな簡単に触れるほど安くない男なんだぜ」 気取った言葉を吐き出すが、私は知っている。つくしがしっぽを上下に動かして床を叩いているときは機嫌がいい時なのだ。だから、きっと撫でられることが嫌いではないのだろうと思う。
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