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眉間にしわを寄せて、彼女は僕に詰め寄るが、僕は冷たい瞳のままだったと思う。
今までだったら、彼女が怒ったり泣いたりしたら、目を泳がせてあからさまに動揺していた。
でも今は違う。なぜなら、僕が一番今の状況を理解できていないからだ。
「……親の会社が倒産した。母の実家がある阿智村で暮らすことになったから、大学は辞退した」
せめてプラネタリウムを観終わってから言うつもりだったのに。
思いもよらない突然の告白に、彼女は大きな瞳を僕に向けたまま、暫く固まっていた。
無理もない。あれだけ毎日必死に勉強していた僕を、推薦で先に合格した彼女は知っているから、かける言葉が見つからないんだろう。
「ちょっと、悲惨すぎて、自分でも笑える」
あまりに重たい空気に冗談めかしてそう言うと、彼女は真顔のままゆっくり頷く。
「悲惨すぎるよ……、どうにかならないの、一人暮らしするとかさ」
じわりじわりと目に涙が浮かんでいくのを見つめながら、僕は、ああこの子は本当はこんな風に静かに泣く子だったんだな、と知った。
もうどうにもならないから、今こうして最後にプラネタリウムを観に来たのだと、彼女は気付いているようだった。
ガムやティッシュが落ちた汚い地面がハッキリ見えるくらい頭を下げて、僕は昨夜なん度も練習した言葉を落とす。
「突然でごめん、今までありがとう。……別れよう」
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